シニアの体調不良は筋肉より先にどこを整える?整体師が教える人生後半の体調管理

筋肉をつける前に見直したい「体の土台」

50代を過ぎ、これからの人生を考える年代になると、ご自身の体調の変化に戸惑うことが増えてくるものです。「最近、なんだか疲れやすい」「以前は一晩寝ればスッキリしていたのに、だるさが抜けない」といった声を、本当に多く耳にします。

そんな時、テレビや雑誌で「年齢に負けないためには筋肉が大事」「シニアこそ筋トレを」といった言葉を目にして、慌ててウォーキングの距離を延ばしたり、スクワットを始めたりする方も少なくありません。もちろん、適度な運動や筋肉を保つことは、これからの暮らしを支える大切な要素です。

しかし、長く体と向き合う現場に立ってきて感じることがあります。それは、「筋肉をつける前に、まず整えておくべき場所がある」ということです。体の土台が整っていない状態で無理に筋肉をつけようとすると、かえって関節を痛めたり、疲れを溜め込んでしまったりすることがあるのです。

なぜ運動しても疲れが抜けないのか

私は今年70歳になる当事者であり、整体師として43年間、延べ3万7千人以上の方々と向き合ってきました。

その中で気づいたのは、元気な方と、いつも体調不良を抱えている方の違いは、単なる「筋肉量の差」ではないということです。運動を頑張っているのになぜか疲れが抜けない方は、車に例えるなら、車体(フレーム)が歪んだまま、あるいはエンジンオイルが切れたまま、アクセルを強く踏み込んでいるような状態です。

フレームが歪んでいれば、いくら立派なエンジン(筋肉)を積んでも、まっすぐ走るだけで余計なエネルギーを消耗してしまいます。年齢を重ねるにつれて、私たちの体は知らず知らずのうちに日常の癖や疲労を蓄積し、この「フレームの歪み」や「オイル切れ」を起こしやすくなっています。

整体師の視点:筋肉より先に整えるべき3つのこと

では、筋肉を鍛える前に、私たちは体のどこを見直し、整えていけばよいのでしょうか。人生後半を楽しむための体の土台づくりとして、私が大切だと考えている3つのポイントをお伝えします。

1. 呼吸を深くするための「胸郭」の動き

まず一番に見直したいのが「呼吸」です。年齢を重ねると、背中が丸くなり、胸郭(肋骨のまわり)が硬くなる方が増えます。胸郭が硬くなると、肺が十分に膨らまず、呼吸が浅くなってしまいます。

呼吸が浅いということは、全身の細胞に新鮮な酸素が行き渡りにくいということです。酸素が足りなければ、いくら栄養を摂ってもエネルギーに変換できず、疲れやすさが抜けません。筋トレをして筋肉に負荷をかける前に、まずは「深く息が吸える体」に戻すことが大切です。胸を開き、肩の力を抜いて、新鮮な空気をたっぷりと体に取り込める状態を作ることが、すべての土台になります。

2. 睡眠の質を決める「自律神経」の休息

次に大切なのが、自律神経を整えることです。自律神経は、体を活動させる「交感神経」と、リラックスさせる「副交感神経」のバランスをとっています。しかし、定年後の暮らしでは、生活リズムの変化や将来への不安などから、常に交感神経が優位になり、緊張状態が続いている方が少なくありません。

体が緊張したままでは、夜になっても深い睡眠をとることができません。睡眠は、日中の疲れを修復する最大のメンテナンス時間です。このメンテナンス時間が短縮されたり、質が落ちたりした状態で運動を増やすと、疲労はどんどん借金のように積み重なっていきます。筋肉をいじめる前に、まずは「しっかり眠って疲れを手放せる状態」へと体を整えることが必要です。

3. 栄養を受け止める「胃腸」の働き

3つ目は、食事を受け止める胃腸の働きです。健康カテゴリでは、心・体・食の乱れを整えることをお伝えしていますが、どんなに体に良い食べ物やサプリメントを摂っても、胃腸が疲れていては十分に吸収されません。

年齢を重ねると、消化する力も少しずつ変化していきます。若い頃と同じような量や味付けのままでは、胃腸に負担がかかり、それが全身のだるさにつながっていることもあります。筋肉を作るためのタンパク質を意識するあまり、胃腸を酷使してしまっては本末転倒です。まずは、自分の胃腸が心地よく消化できる量と質を知り、内臓を休ませる日を作ることが大切です。

毎日の暮らしの中で無理なく体を整える方法

体の土台を整えるといっても、難しいトレーニングや苦しい我慢は必要ありません。人生の次の章を考える頃には、頑張ることよりも「心地よさ」を基準に日常を整えていくことが長続きの秘訣です。

朝の過ごし方:光と呼吸でスイッチを入れる

朝起きたら、まずはカーテンを開けて朝日を浴びましょう。これだけで自律神経のスイッチが自然に切り替わります。そして、窓辺で胸を大きく開き、ゆっくりと深呼吸を3回繰り返します。吸う息よりも、吐く息を長くすることを意識すると、胸郭が柔らかく動きやすくなります。

その後は、コップ一杯の白湯をゆっくりと飲み、胃腸を優しく目覚めさせます。冷たい水ではなく白湯にすることで、内臓から体が温まり、一日の活動に向けた穏やかな準備が整います。

夜の過ごし方:温めて緩める時間を大切に

夜は、交感神経から副交感神経へとバトンタッチする大切な時間です。シャワーだけで済ませず、少しぬるめのお湯(38〜40度くらい)にゆっくりと浸かることをおすすめします。湯船に浸かると、水圧で足先の血液が心臓に戻りやすくなり、全身の血流が改善します。

お風呂上がりには、無理なストレッチで筋肉を伸ばすのではなく、足首や手首を軽く回したり、さすったりして、関節の緊張を緩めてあげましょう。体が「もう休んでいいんだな」と安心できる状態を作ることが、良質な睡眠につながります。

体が整うと、これからの暮らしが軽くなる

筋肉をつけることは素晴らしいことですが、それは体の土台が整ったあとの話です。「呼吸」「自律神経」「胃腸」という3つの土台が整うと、朝起きた時のだるさが少しずつ減り、日中の活動も不思議と楽になっていきます。

当サイトでは、「整える → 軽くなる → つながる」という上位概念を大切にしています。体が整うと、心にもゆとりが生まれ、暮らしの重荷がフッと軽くなります。気持ちが軽くなれば、「ちょっと散歩に行ってみようかな」「新しいことを学んでみようかな」という好奇心が湧き、そこから自然と人とのつながりが生まれていきます。

ご自身の体を急がせたり、無理な負荷をかけたりする必要はありません。これからの時間は、ご自身の体と優しく対話しながら、心地よく整えていく時間です。同じ時代を歩く一人として、あなたが無理のない範囲で、ご自身のペースで体を整えていかれることを願っています。


【免責事項】
この記事は一般的な健康情報としてお届けしています。医療行為や診断を目的としたものではありません。強い痛み、不調、持病がある場合は、無理をせず医療機関や専門家にご相談ください。